02.「誠意」は禅問答の果てに
私にとって接客は「未知との遭遇」と言っても過言ではありません。
お客さまは皆、さまざまな「事情」=荷物 を背負って、お店にやってきます。その事情の中は「感情というガソリン」で満たされていると、現場の対応者たちは知っています。
そして、何かのはずみで、チョロチョロと漏れ出した「感情」に引火すると大爆発が起こることもあります。
まるで、ロシアンルーレットです。
そうかと思うと、ピリついたオーラを身に纏う強面の男性から、労いの言葉をかけていただくこともあります。
強面男性:「姉ちゃん、ご苦労さん」 私:「フェッ!???」
ジャングルで遭遇したアナコンダから、飴ちゃんを貰った時のような、なんとも表現し難い気持ちになります。もちろん、そんな経験はありませんが。
そんなわけで…
エッセンシャルワーカーにはクレームがつきものです。
「エッセンシャルワーカーといえばクレーム」「クレームといえばエッセンシャルワーカー」というのは、研究結果でも示されています(!?)。どんなに完璧な接客をしても、お客さまの虫の居所が悪いと容赦なく被弾します。それもなかなかの頻度で、です。
私が被弾した時、よく言われたのは
「誠意を見せろ!」
という抽象的なセリフです。
当然ながら「誠意」は目に見えないものです。てことは、生半可では私の「誠意」は認めてもらえません。
では、どうすればいいのか?
これは、かなりの難問です。どんなに顧客対応マニュアルをめくっても、よく当たると評判の占い師「どこぞの母」に尋ねても、「誠意」の正体は教えてくれません。
それは、対応者にとって 歪んだ時空の先にある「誠意」を、目に見えるものに変換して差し出さねばならないということを意味します。
まさに地獄です。
カスハラ協会の先生方の調査分析では、一般的なカスハラ加害者の目的は大きく3つに分かれるそうです。大雑把に言うとお金、商品、謝罪、この3つです。
なーんだ!簡単じゃないか!…と思われる方もいるかもしれませんが、お客さまはそんなに甘い方ばかりではありません。
①商品を新品交換する、②代金を返却する、と言った簡単な内容以外にも「商品不良のせいでケガした」とか、「俺サマに時間をかけさせた対価を払え」とか、大小さまざまな攻撃を繰り出します。
そして、カスハラ加害者で、最も意地悪な部類の人たちは、決して自分から「誠意」の答えを教えようとはせず、こちらが正解するまで、ひたすら遠回しの「なぞなぞ」を出し続けてきます。
1時間、2時間ならまだマシで、数日「なぞなぞ」が続くケースもよくあります。そのうち、真剣に対応していた私も集中力が切れてきます。
「疲れたな〜」と顔をあげると、
ふと、昭和アニメ「一休さん」に出てくる禅問答のシーンが脳裏によぎります。
カスハラ加害者:
「そもさん(作麼生)!」
「今回のトラブル経緯と私の人生哲学、ならびに現在の私をとりまく事情を鑑みて、私の求める『誠意』とは何かを答えよ!」
私:「せっぱ(説破)!」
「…てか、あんた誰?」
そんなわけで、すっかり秋めいてきた空の下、今日も室町時代に思いを馳せるカスハラ対応者がどこかにいるはずです。(んなことはない)