被害者への妄想

03.ちょくちょく鬼滅できない鬼対応マニュアル

世間ではコロナ禍で夜出歩くこともできなくなり、NetflixやAmazonPrimeなどの動画配信サービスに加入する人が多くなりました。かくいう私も、緊急事態宣言中にアニメ版「鬼滅の刃」を視聴しました。

アニメ版を視聴する限り、「鬼滅の刃」は、

鬼=「平和を乱す相手

と向き合うお話のようです。それも単なる勧善懲悪ではなく、鬼も涙無しでは語れない やんごとなき事情を抱えており、各々の思惑が複雑に絡み合いながら、物語が進んでいきます。
主人公たちは「鬼に特化した対応技術を持つチーム」=鬼殺隊(きさつたい)に所属しており、それぞれに鬼退治の必殺技を持っています。チーム内には「柱(はしら)」と呼ばれる最強クラスの兄貴分もいて、体制は万全かのように思われます。

鬼対応チームの一員(炭治郎)

しかし!どんな世界にも、すべての鬼に通用する技や戦術はありません。
そこで、チームは臨機応変にフォーメーションを変えながら、時には敗北をも喫しつつ、鬼と向き合い続けていく…。とても感動的なストーリーなのです。
…皆様、もう私が何を言わんとしてるのか、もうお分かりかもしれません。

そう、私は対人サービスの対応者は、竈門炭治郎の立場なんじゃね?と言いたいのです。

もちろん、対人サービス職が相対するお客さまは、鬼なんかではなく、私たちと同じ人間です。対人サービス職の方々がお客さまと対峙することなんてありません。
でもここだけの話。万が一よりも、もっと低い確率かもしれませんが、お客さまの中に、「お客さまのフリをした鬼」が潜んでいることがあります。それの中には「十二鬼月(じゅうにきづき)」に匹敵するような最強クラスの鬼までいます…。(十二鬼月とは、ラスボスを取り巻くメチャクチャ強〜い鬼たちのことです)

十二鬼月の悪いやつ

とはいえ、そのくらいは組織も想定しています。そのために組織内にはキチンと苦情対応マニュアルを用意されており、対人サービス職に従事する方々は皆しっかりと教育を受けています。

こういったマニュアル整備は、非常に重要で、カスハラ協会の先生方の調査分析によれば「組織対策と対応者の心身変化には有意な関連」が見出されています。つまり、 会社全体でクレームやカスハラ対策をしている職場においては、対応者がカスハラ被害を受けても、落ち込んだり眠れなくなったりする割合が低くなっていることが示されているのです!!

UAゼンセン2020の実態調査の結果 (接客担当者のカスタマーハラスメント体験と組織対策との関連~心身への影響に着目して~/2021 島田、桐生、染矢)
 

この分析結果を見て、「いや〜、うちの会社、顧客対応マニュアルがあるから万全だね〜」と安堵している管理者がいるかもしれません。


 
 

でも、ちょっと待った!

マニュアルは備えていても、その内容で本当に鬼に対応できますか?

そうです。次のステージで重要になるのは、マニュアルの内容なのです。
私の経験だと、だいたいどこのマニュアルにもこんなことが書いています。

・誠実な対応をする
・お客さまのお話を傾聴する
・お客さまを不快にせず、伝えるべきことは伝える等

あるある顧客対応マニュアル by おだん子

なるほど、ごもっともです。
このマニュアルは、大半のお客さまとの円満なコミュニケーションに寄与しています。

でもね。
それは会話が成立するお客さまの話。もし相手がごくまれな「お客さまのフリをした鬼」ならどうでしょうか。なんだかちょっと難しい気がしませんか?
さらに運が悪いことに、その鬼が「十二鬼月」クラスの難易度だったなら?
あなたが満面のスマイルで「いらっしゃいませ!」とお迎えした途端、いきなり蜘蛛の糸を巻きつけられて宙ぶらりんに吊られたり、蒸気機関車のてっぺんで慣性や合成風速をガン無視して眠らされたりするわけです。

こんな荒唐無稽な鬼たちに「誠実な対応」や「傾聴」を中心としたマニュアルは通用しないのではないでしょうか。一瞬でも気を抜いたら、足をすくわれ劣勢に立たされてしまいます。

じゃあ、もしそんな強敵が来たらどうするよ?

チームの「柱」にバトンタッチすればいいのか?しかし、そんな都合よく「柱」や「チームの仲間」が駆けつけてくれるケースは多くないでしょう。
…とすると、助けがくるまで、対応者は1人で「鬼」の攻撃を受けることになります。(あるあるシチュエーションです)

頼りになるリーダー(柱)

雲の上から「炭治郎も厳しい実戦で技を磨いたんだ」という精神論が聞こえてくるような気がしますが、対人サービス従事者すべてが炭治郎のような資質があるわけではありません。

ましてや、背中の木箱に「鬼=カスハラ加害者」を匿っていて、いざとなると飛び出して加勢してくれることもないのです(そんな地獄の光景は想像すらしたくないですが…)

ともなれば、やはりマニュアルに「機動的なチームプレー」まで記載されていて初めて、対応者は「お客さまのフリをした鬼」にも自信を持って対処できるようになるのだと考えられます。「鬼なんてたった一部でしょ?」と侮ることなかれ。コロナ禍のような不測の事態が継続した場合、お客さまの中に潜む鬼の割合や対応の難易度も上がっていきます(この分析結果は別の機会にご紹介します)。

あなたの会社の「顧客対応マニュアル」は、超脇役の鬼ですら「ちょくちょく鬼滅できない」ものになっていませんか? もし「怪しい」と思ったら、チーム内のメンタルヘルス向上のためにも、「十二鬼月」対応について「柱」に尋ねてみてはいかがでしょうか?

(マニュアルが)うまくない!」「うまくない!」と答えてくれるかもしれません。

これが「美味い!」と言いたくなるクオリティ

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